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ピンドラ大人世代SS「氷の世界」

きっとなにものにもなれないSSを記念に書いておく記事です。
読んでやろうという方は↓のリンクからどうぞ。

剣山(と眞悧)の南極での出来事小ネタ。

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【 氷の世界 】

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原始の地球の姿を保つ、南極は厳しい大地だった。
そこでは、人間の浅はかな思惑や試みなど通用しない。
地球の支配者なのだという思い上がりはすぐに折れ、雄大な自然の前にひれ伏すことになる。
隊のメンバーは、極限の大地を訪れた感動に酔い痴れた。全員で撮った集合写真には、笑顔があふれていた。

計画では、滞在は半年の予定だった。
三カ月を過ぎた頃、変化が訪れた。
かたい信頼で結ばれていたはずの仲間に、亀裂が生まれた。
四方を氷で囲まれた閉鎖空間では、なによりも信頼が大切だ。
そう言って、剣山は仲間を諭した。
けれど、一度火のついた不信は燻ぶり続け、事あるごとにメンバーを苦しめる。

隊のメンバーに、負傷者・病者が現れ始める。
医者や薬が容易に手に入る環境ではない。
日々弱まっていく彼らを前に、剣山はなす術もない。
計画を優先すべきか、帰還するかの二択を迫られた時、健康な人間は彼らを置いて先に進もうと提案した。
連れていけないメンバーの中に、疑わしい人間がいたからだ。

置いていけない、置いていくべきではない、と考える剣山を、肢を一本失った仲間が諭す。
置いていけ、悩んで時間を浪費するな。
迷う剣山に、同行していた医者が、ある薬を差しだした。

「これを使えば、彼を楽にさせてあげられる。君は、最初からこうすべきだとわかっていたはずだろう?」

剣山が薬を使うと、彼はありがとうと言って、動かなくなった。
自分を呪い、彼の亡骸を抱いて外へ飛び出した剣山の前に、雄大かつ美しい自然が広がっていた。
剣山を慰めようとでもいうかのように、優しい光が空に柔らかなカーテンを広げている。

ああ、そうだ、世界はこんなにも美しく、雄大であったのだ。
にも関わらず、自分はなにを考え、迷っていたのだろう。
誰よりも置いていくべきだったのは、不信に駆られ、美しさを失った彼らじゃないか。

テントに戻ると、見守っていた仲間たちは、笑顔で剣山を迎え入れた。
これでもう安心だ、計画通り研究を進められる、と、明日に備えて休息をとろうとした彼らは、美しくもなければ、仲間でもない。
その夜、剣山は彼らにも薬を使った。
医者は、剣山の奮闘を讃え、慰めた。

「君は正しい、君は素晴らしい。わかっただろう、これが、君の欲しかった答えだ」

求めていた解を得て、剣山は帰国した。

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