ピンドラ大人世代SS「行き違った運命」
- 2012/07/14 17:56
- カテゴリー:輪るピングドラムSS
きっとなにものにもなれないSSを記念に書いておく記事です。
読んでやろうという方は↓のリンクからどうぞ。
鷲塚先生と剣山の出逢いから決別までの小ネタ。
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【 行き違った運命 】
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鷲塚と剣山は同じ高校から同じ大学へ。
お互いに専門の分野は違ったけれど同じ町から同じ街で再会したことで打ち溶け合った。
鷲塚は医療の分野で一人でも多くの人間を救おうと思っていた。
剣山は、未だ解明されない人類の神秘を解明することで、人類に貢献しようと考えていた。
実践と研究、二人の立場はすれ違う。
それでも、彼らは互いの実力を信頼し、人間として信用もしていた。
だからこそ、鷲塚は剣山が求めた時、自分の愛弟子を進んで提供した。
南極大陸はシビアな環境だ、そこで培うものは、必ず弟子にとって有益であるに違いない。
本当なら、南極へは鷲塚が旅立つはずだった。
しかし、鷲塚の前には既に何十人何百人もの患者が並んでいたし、彼らを治療することは鷲塚の使命だ。
侘びる鷲塚を、剣山は咎めなかった。
無事を祈っていてくれ、と言い置いて彼は旅立つ。
そうして何年かが過ぎて、戻ってきた剣山は、変わってしまっていた。
変わったのは、鷲塚の方だったかもしれない。
いや、誰も変わってなどいなかった。
人も世界も社会も、なにも変わっていなかったのに、氷の世界の温かさと厳しさとに研ぎ澄まされ磨かれて、真に美しいものを心に刻んだ剣山にとって、人も、世界も、社会も、意地汚く穢らわしく不届きなものに感じられた。
久々の友の再会。
剣山はショックを隠せず、鷲塚にその思いをぶちまける。
しかし、この数年の間に、何百人何千人をメスで切り、救い、死なせた鷲塚の、手も心も血だらけだった。
剣山の言葉は鷲塚には荒唐無稽な理想に聞こえ、鷲塚の言葉は剣山にとって薄汚い雑音だった。
二人の関係は決裂し、以後、連絡も取れなくなった。
連絡が取れなくなった人間は、あと二人。
同じ学び舎で学び、共に剣山を待っていた千江美と、鷲塚のもとに帰ってくるはずだった研修医。
彼らの旅立ちを、鷲塚は見送った。
寂寥は感じたが、多忙な日々が彼の心を忙殺した。
自分は間違ってなどいない、事実、自分は数えきれない人間を癒し、救い、感謝されている。
そう信じ、全てを過去にした鷲塚もまた、あの事件に衝撃を感じたが、それもすぐに過去のものになった。
過去に出来ないニュースが飛び込んできたのは、それからまた何年かが経ったある日の夜のことだった。

